
和歌山県出身の女流作家で、没後40年近くなる今なお色あせない普遍的なテーマの作品が増刷され続ける有吉佐和子。1963年の発表ですが、「元祖お仕事小説」として文庫で新装出版された長編小説をご紹介します。
物語 「東京デパート」呉服売り場担当の紀美子、地下のお総菜売り場担当の節子、エレベーターガールのサユリは高校時代からの仲良し3人組。
真面目で負けず嫌いの紀美子は、同じ職場の新人男性・生方が生意気で気に入らない。自分たちを「腰掛けのつもりで働いている」と内心バカにしているようだ。互いに反目し、売り場で大声でケンカして上司に怒られるほど犬猿の中だったのに、紀美子は、生方が商品について驚くほど深く勉強していたこと、生方は、紀美子が客の万引き行為を糾弾するのでなくさりげない対応でやめさせたことに感銘を受け、少しずつ関係が変わってくる。
小柄で体格がよく明るい節子は、毎日主婦が詰めかけて戦場状態になるお総菜売り場で一心に働く。手早い対応が求められ、他のことを考える余裕もないが充実感いっぱいだ。取引先の食品会社から応援に来ている竹井と親しくなるが、陰湿で些細なことでも大問題にする上司が竹井を目の敵にし、毎日厳しく難癖をつけて節子の胸を痛めさせる。
モデル体型で美貌のサユリは結婚願望が強く、宣伝部のデザイナーと深い仲になるが、相手の調子のいい態度に不安を感じ、「私たち、結婚ってできないのかしら」と言ってみると、こともなげに「できないね。僕には妻子がいるから」と返される…。
盛んに行われるストライキ、サイクリングで集団デートと60年近く前の世相を織り込みながら、女子社員は退社前に持ち物検査されるなど給与面だけではない男女格差も詳細に描写されます。といって決して社会派小説ではなく、眼目はタイプの違う3人の女性がそれぞれ社会の荒波にもまれながら人生の伴侶を見つけ、あるいはそれに失敗してたくましく一人で生きる姿が描かれていること。著者の分身と思われる紀美子は視覚障害者のための朗読テープ録音のボランティアをしており、現代語訳の「源氏物語」を読むことになってから原作に描かれる季節感に感銘を受け、それを古典柄の勉強に生かすことからいつのまにか着物を見る目が肥えてきている辺りの描写は読んでいて引き込まれます。
生前、著者への文壇の評価が必ずしも高くなかったのは「通俗的」とみなされていた故と思われますが、人間の本質への鋭い洞察を決して堅苦しくなく、分かりやすく面白く描こうとする姿勢が時代を超えて読み継がれる大きな仕事になるのだと、当時の評論家に伝えたい気がします。(里)


