少女漫画界の巨匠が数年前、40年ぶりに再開してファンを沸かせた名作シリーズ「ポーの一族」の最新作「秘密の花園」をご紹介します。

 物語 舞台は19世紀末、イギリス。エドガー・ポーツネルは人間の生気(エナジイ)を吸って生きているバンパネラ「ポー」の一族。外見上は14歳の少年だが、18世紀初頭から生きている。ある町で仲間にした少年、アランが道連れだが、イギリス中部の歴史ある都市レスターまで来たところでアランは一族特有の「眠りの時期」に入ってしまった。安全な処で数カ月は寝かせなければいけない。

 倒れた時には孤独な貴族アーサー・クエントン卿の屋敷に来ていた。アーサー卿は人嫌いで自分を「鬼」と称しているが、エドガーの姿かたちに少年時代の友人を思い出して心動かされ、使っていない部屋の大きな箪笥の中でアランを眠らせることを承諾。その代わり、エドガーに絵のモデルになることを要請する。アーサー卿は絵が趣味で、屋敷に代々伝わる「ランプトン」と名付けられた肖像に心ひかれていたが、その肖像画にエドガーがそっくりなのだ。少年らしからぬ達観した雰囲気、時折こぼれる不思議な言葉。絵を描くうち、アーサー卿の中でエドガーの存在は少しずつ重みを増し始める。
だがある日、アーサー卿の幼なじみで思い人だったパトリシア一家が家を訪ね、パトリシアの幼い息子と娘は屋敷を探検するうちアランの眠る部屋へ侵入する。アランは急に目覚めさせられた場合、意識のはっきりしないまま手近な生き物をつかまえて生気を吸ってしまうかもしれないのだが…。

 発表当時センセーションを巻き起こし、少女漫画の価値を画期的に高めた記念碑的な1作。アマゾンの書評欄では、私と同年代と思しき人だけでなく若い世代の人を含めて600件以上のレビューがあり、注目度の高さがうかがわれます。

 1970年代に発表されたのはコミックス全5巻。大長編というボリュームではないのに、遥か世紀を超える旅の永遠性がその中に確固として存在している。手に持ったコミックスの中で時空が揺れ動くようなダイナミズム、読む者の心のひだに繊細に触れてくる細やかな叙情。物語は生き物だと実感させられます。

 本書は、コミックス4巻「ランプトンは語る」のアンサー的エピソード。アーサー卿の孤独な内面にまで踏み込み、大河小説を凝縮したような味わい。アーサーがついに心の奥底を吐露し、今は人妻となったパトリシアと「夢の言葉」を交わし合う場面は心揺さぶられます。生身の人間故の悲しみ、そこから捨て身の行動で得る心底からの喜び。情を揺り動かす表現の凄さは、そこに人間の真実が的確に描かれているから。

 エリザベス二世女王陛下が崩御され、イギリスが注目されていますが、本作は古き良きイギリスが存分に味わえる名作漫画です。(里)