「コンビニ人間」で芥川賞を受賞した村田沙耶香の短編集。グロテスクな表現もありますが、どの話も今の現実世界からかけ離れつつも人間のリアルな部分を浮き彫りにし、奇妙で独特な世界観が一貫して続きます。12編収録されていますが、この中から表題にもなっている「生命式」の紹介と感想を。

 人が死ぬと葬式をして、故人を弔い送り出しますが、ここで登場する「生命式」は新しい形の葬式で、故人を偲びながらその人の肉を皆で料理して食べるというもの。従来の葬式は親族や友人が黒い喪服を着て参列するのが当たり前ですが、生命式では妊娠を望む男女の出会いの場となっており、なるだけ華やかな服装で参列することが求められます。味噌などで味付けされた人肉鍋を共にしながら、気に入った人がいれば退席し性行為をする。この世界では性の価値観は極めてシンプルにそぎ落とされ、性行為は子孫を繁栄させるだけの機械的なものと扱われているため「受精」と表現されています。生命式で故人の肉を食べることで生命力をもらい、そこで受精して妊娠するのが素晴らしいと認識されているのです。

 話はこの文化にあまり積極的ではない主人公の女性が同僚の死を受け、生命式に参列するというものですが、同僚の調理シーンや受精までに至る描写がなんとも現実的。〝もし自分が参列することになったら〟と置きかえて想像することもできました。冒頭で生命式が行われる背景として、人口の急激な減少で人類の絶滅が不安視されるようになったため性の価値観も〝繁殖行為のみの行動〟に変わり、国の方策として生命式が行われるようになったと説明されています。それは約30年前の話で、主人公の小さい頃は喪服で出席する葬式が主流だったようです。そう思うとなおさら、この奇妙な世界が現実味を帯びて脳に訴えて来る感覚がありました。(鞘)