第167回(2022年度上半期)芥川賞受賞作品を紹介します。「文藝春秋」誌に、選評やインタビューとともに全文掲載されていたのを読みました。

 物語 ある会社の若い男性社員二谷は、後輩の若い女性社員、仕事ができてしっかり者の押尾と飲みに行き、先輩の女性社員、芦川が苦手だと打ち明けられる。芦川はいつもニコニコして見た目も「かわいい」女性だが、仕事ができるとは言い難く、片頭痛や体力のなさを理由によく早退や欠席を繰り返す。声の大きな男性がこわいので、取引先へトラブルの対処に行くこともできない。やがて「皆さんに迷惑をかけるから」と毎日手作りの凝ったお菓子を配るようになり、ほめられると「うふふ」とかわいく笑う。そういう「女子力の高さ」が幹部のおじさん連中には大いに受けている。年配の男性社員達の間には、「芦川さんは守ってあげなければ」的な空気が生まれていた。

 そんな一つ一つのことが、仕事の肩代わりや後始末を押し付けられる羽目になる押尾をイラっとさせる。

 押尾は酔った勢いで二谷に言う。

「私と一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」

 しかし、実は二谷は芦川のか弱そうなところや女性らしい外見に魅力を感じ、他の社員達には内緒でつきあっていたのだった。毎日部屋へやってきては、だしを取ったみそ汁など丁寧に作っていく芦川は、結婚相手にはいいだろうなと思わせる。

 ところが二谷は本当はカップ麺が大好きで、芦川手作りの甘いお菓子や体にいい和食など毎日食べていると、なんだか調子がおかしくなってくる…。

 職場内のおかしな三角関係をユーモラスに描いているようですが、一読してからあらためて内容とは裏腹のタイトルを見ると、逆説的なところがいっそホラーのように思えてきます。「おいしいごはん」だけで十分かなという感じもしますが。

 「弱さ」を武器にして、彼女なりの戦いを着々と有利に進めていく芦川さん。主要人物3人のうち二谷と押尾の視点で交互に話は進められていき、芦川の内面については描写されないままなので、ずっと謎を含んだ存在です。見た目とは裏腹のこわさやブキミさを想像させてくるのは、近年の芥川賞受賞作品である「コンビニ人間」や「むらさきのスカートの女」に通じるものがあるかなと。
 面白いといえば面白く、平易な言葉で「いまどきのオフィス事情」を実感的に語りながら少しずつ緊迫感のある人間関係を浮かび上がらせていく辺り、才能を感じさせます。ただ、どの登場人物にも積極的に感情移入できなかったのは、私自身食べることが大好きだからかもしれません。その点では、「みんなで食べにいくぞ」と大声で部下を誘って煙たがられるおじさん社員が一番共感できたかも。(里)