「将来、アナウンサーになりたくて、どうしても東京の有名大学に入りたかった」。大学入学共通テストの問題が外部に流出した事件で、書類送検された19歳の女子大学生が供述したという。

 もちろん、この供述だけが不正の動機ではないだろう。憧れの女子アナになるという目的を達成するため、東京の有名難関大に入ることを手段とすること自体、それはそれで悪いことではないし、間違ってもいない。問題はその次。

 女子アナになるという目標のため、有名大学に入り、卒業することを手段としたが、自分の力ではこの手段を実現することが難しい。いつのまにかこの手段が大きな目標となり、学力の足りぬ自分が合格するため、不正を考えついた。

 袖に隠したスマホで撮影した動画を外部の協力者と共有し、その協力者が画像にして事情を知らない東大生らに送り、解答を得ていた。じつは昨年も同じ手口と協力者で不正を試み、成功して協力者に十数万円の報酬を支払ったものの、志望校には合格できなかった。

 よくいう目的と手段の入れ替わり。彼女の場合、勉強を頑張る→学力が上がる→志望校に合格するという前向き、上向きの入れ替わりではなく、カンニングをする→金で協力者を雇う→東大生に問題を解かせるという後ろ向き、下向きの連鎖。自分にできる精いっぱいの〝手段〟だったのだろう。

 実際、厳重な監視の目をどうやって盗んだのか。ニュースはその不可解さが世間の関心を集めたが、続報を読むほど「?」が増えるのも奇妙。ともに将来を話し合い、弱さに気づき、過大な目標や危険な考えを正してくれる家族や友人がいなかっただろう。華やかな夢とは裏腹に、ほの見える現実の闇が悲しい。

(静)