御坊短歌会、日高短歌会で会長を務める小田実さん(88)=御坊市湯川町富安=は、米寿記念に歌集「青空を指す」を出版した。

 小田さんは大阪市生まれ。幼少の頃、父の故郷の和歌山県へ疎開してきた。大和紡績、県労働金庫に勤務し、29歳の時に知人の勧めで短歌を始めた。近年、作歌活動が60年近くになることから妻の久子さん(87)に勧められ、NHK学園の自費出版相談会に参加。これまでに詠んだ短歌と半生をつづった一文を収録した全196ページ、ハードカバーの一冊が完成した。

 表紙絵は太陽の輝く青空。題字は書道をやっている長女の小田尚蕓(しょううん、本名尚子)さんが手がけた。

 題は7年前に詠んだ短歌「台風に葉をちぎられし梅の枝今真つ直ぐに青空を指す」からとっている。「私の年賀状」「四季の恵みに」「照る陽に向きて」「若葉あふるる」の4章から成り、1章の「私の年賀状」では42歳の時から毎年年賀状に書いてきた歌「見て聞きて言ふべき事は言ひ合へる平成の世の三猿ならむ」「吾が妻と三十一文字の年賀状四十三年こりや幸せだ」など43首を収録。そのほか家族を詠んだ「孫からの夕食ねだる電話受け妻の動きがせはしくなりぬ」「音の出ぬおもちやのピアノ修理すとばらばらにして孫に泣かるる」「女曾孫は生後五か月吾を見て拳突き上げ脚けりを見す」など温かい歌が並ぶ。77歳で肺がんを患った時の「手術後の経過良好カラオケを二時間経ても疲れは知らず」「闘病の気を満身にみなぎらせ煙樹ケ浜を踏みしめ進む」などもあり、手術してくれた医師に詠んだ歌を捧げると喜ばれたという。収録作品の中で自身が一番気に入っているのは「薬草の青洲を知り粘菌の熊楠を知り吾は何せむ」。最後に収録した「実の八十六年」と題する一文には、戦時中の思い出、大和紡績勤務時代に1953年の7・18水害に遭ったことなどもつづり、時代を記録する一冊ともなっている。

 小田さんは「継続は力といいますが、続けることに価値があると思います。これからも日々の思いを詠み続けていきたいと思います」と話している。

写真=妻の久子さんと歌集完成を喜ぶ小田さん