今月20日、漫画家みなもと太郎さんの他界が報じられた。享年73歳。筆者にはこれほど大きなショックはなかった◆40年以上の連載「風雲児たち」は歴史大河ギャグ漫画という、他に類をみないジャンルである。単行本は江戸時代を描いた全20巻、そして本編というべき「幕末編」。昨年夏に出版された34巻が最後となってしまった◆出版社からは「幕末をテーマに単行本10巻ほどの作品を」と注文を受けたのだが、みなもとさんは「幕末の争乱を描くには、根本的原因から描かなければ」と1600年の関ヶ原から執筆を開始。20年かかって江戸時代を描き切り、出版社を移って新たに「幕末編」をスタート。さらに20年かけて動乱期の日本の歩みを克明に追い、明治政府誕生まであと5年というところまできていた◆愛敬のあるシンプルな絵で、ギャグを織り混ぜながら驚くべき史実が生き生きと語られる。心ある人々が、如何にして強大な権力機構と必死に戦い、犠牲になっていったか。「ギャグ漫画」と銘打ちながら、これほど泣かせる漫画を他に知らない◆この国の歴史は非常に面白い。なぜ、どのように面白いのか。どれほど大勢の凄い人物が凄い生涯を送り、それがこの国の運命をどう動かしてきたのか。それをとにかく分かりやすく、多くの人に伝えたい。そのあふれんばかりの情熱、真実を見通す英知、そしてサービス精神とユーモア精神。それらが見事に結実した、まぎれもない大傑作である◆高杉晋作の雪の功山寺決起をどのように描いてくれるか、このうえなく楽しみにしていた。坂本龍馬の活躍もまだこれからだった。残念の一言に尽きる。偉大な労作に感謝するとともに、絵の奥底からほとばしるメッセージを今一度かみしめたいと思っている。(里)