1999年から御坊市で活動を続けていた「源氏物語を読む会」がこのほど、全五十四帖の原文を読了した。22年がかりの偉業である。元県立高校国語科教諭で宮司の故廣野雅昭さんが3年半にわたり、原文を16冊のノートに筆写。廣野さんを講師に、そのノートコピーをテキストとして「会」は始まったという◆読了後に取材した際、ノートを見せていただいた。見開きのページに流れるような手書きの文字が美しく並ぶ。卓上にずらりと置かれたノートは一冊一冊が通常のものよりも分厚い。その分量に、1000年の時を超えてきた物語の厚みと重みを思った◆「好きな登場人物は紫の上。光源氏が理想通りに育てて妻にした女性だけれども、つらいことも多く、かわいそうな女性でもあります」「当時は紙も貴重なもので、物語を書いたり読んだりするのは貴族階級だけに許された楽しみ。大変な格差社会だったと思いますが、そんな貴族社会があったおかげでこんなにも素晴らしい文化が現代にまで残っているのは、有意義なこと」「なんといっても、1000年も前に書かれた人の情が、今の時代と少しも変わらないことに強くひかれます」…会員の皆さんが次から次へ熱く語ってくださる言葉は、400人余りの登場人物が織り成す物語の強い磁力を感じさせてくれた◆2009年、「源氏物語千年紀」の年に本欄で「いずれ読みたい」と書いたのに、実際は忙しさにかまけて手にも取れなかった。原文を音読し、この豊かな物語をご自身のものにされた皆さんは「ぜひ読んでください」と強く勧めてくださった。今度こそと気を引き締めている。広く深い海へ飛び込む前のような気持ちである。(里)