洋の東西を問わず、景気が悪くなると犯罪が増え、経済の失政で生活の困窮が続くと国民の心はすさみ、過激な排他的思想に走ってテロなどが引き起こされる。国家間の紛争が世界大戦に発展したのは歴史の事実。

 人間には理性があり、欲望を抑え、他人と協調することで社会の安定を維持している。しかし、人間の精神はいとも簡単にバランスが崩れ、目の前の恐怖、目に見えない不安が崩壊への速度を加速する。

 スティーブン・キング原作のホラー・サスペンス映画「ミスト」。ある日、湖畔のまち全体が謎の霧に包まれ、スーパー内に閉じ込められた住民が正体不明の怪物に襲われる。エイリアン的な怪物の怖さより、集団の恐怖と発狂を描いた点で秀逸である。

 閉鎖空間に閉じ込められた人々が恐怖心と猜疑心にさいなまれ、1人の女が怒れる神に生贄を差し出せと叫ぶ。目の前で次々と仲間が亡くなっていくなか、信仰に救いを求め、集団の中からカルトなリーダーが誕生する。

 いま、現実の私たちもよく似た危機のとば口に立っている。新型ウイルスは高齢者の命を奪い、感染、拡大を続けている。安倍首相が全国一斉の休校要請に踏み切り、前代未聞の国家的閉鎖措置に、一気に国民の危機感が高まった。

 マスクや消毒液は品切れが続き、ネットで法外な値段で転売され、入荷した店では行列への割り込みを巡り殴り合いの喧嘩も。国会ではここぞとばかり、野党議員が対策の遅れを声高にあげつらう。

 新型ウイルスで経済が冷え、株価が下がり、マスクを奪い合う姿は、スペイン風邪大流行のあとの昭和金融恐慌の取り付け騒ぎのよう。いまこそ、どんなときも冷静さを失わぬ日本人の精神力の強さを発揮したい。(静)