御坊ライオンズクラブ主催、日高地方子ども暗唱大会を取材した。今回で9回目を数える。第1回の取材時を思い起こすと、もうそんなになるかと驚く。当時小学生で優秀賞を受けた森山栞奈さんはその後も好成績を上げ、今回は高校生として司会進行の大役。通り一遍のあいさつでなく状況に応じて適切な言葉をかける、見事な司会ぶりだった◆2015年の大会では当日朝、シリアでジャーナリストの後藤健二さんが犠牲となった事件が報道された。谷川俊太郎の詩「くり返す」の暗唱で「命はくり返せないと、くり返さねばならない」と叫ぶような力強い声が、理不尽な暴力に抗するように胸に響いたのを覚えている。そして5年近く経った今、またも異国で人々に尽くしていた日本人が犠牲になる事件が起こった◆書店で画家の安野光雅著「皇后美智子さまのうた」が目に入り、皇室ファンの母に買おうと手にとった。開いた途端「中村哲は」という文字が目に飛び込み「はっ」とした。美智子さまがアフガニスタンの旅を詠んだ歌「バーミアンの月ほのあかく石仏は御顔削がれて立ち給ひけり」の解説の中で、医師中村哲氏が紹介されていた。「彼を慕ってアフガニスタンまで働きに来た伊藤和也が何者かに殺された。しかし、中村哲は『人は愛するに足る』と信じ、使命感を持ってアフガニスタンにとどまった」。何年も前の本をたまたま手に取ってこんな記述に出会い、不思議な気がした。中村氏は今月4日、当地で武装勢力に襲われ亡くなった◆「言葉の力」が心を動かすという経験。その積み重ねが、理不尽な暴力をも凌駕する場面がきっとある。暗唱大会という取り組みによってまかれた種が、「言葉の力を信じる心」として強靭に育っていくことを願っている。(里)


