昭和は田宮二郎、平成は唐沢寿明、そして岡田准一主演の令和版が先ごろ放映された、医療ドラマ「白い巨塔」。原作は昭和40年(1965年)刊行と半世紀以上も昔の作ですが、映像化を機にご紹介します。

物語 国立浪速大学第一外科の助教授、財前五郎は食道噴門がんの手術を得意とし、マスコミでも脚光を浴びている華やかな存在。第一外科教授の東は退官を控え、後継者には当然財前を推薦すべきところ、彼の傲慢な性格がどうにも気に入らず、他大学からの移入を画策する。
財前は、妻の父で医師会役員でもある財前又一、OB会の後押しを受けながら、票集めに奔走して東に対抗。あらゆる策を弄して、熾烈な教授選を勝利。晴れて第一外科教授の地位を射止める。 

一方、財前の学生時代からの友人である里見脩二助教授は、財前とは対照的に権力抗争などに関心はなく、医学の研究、自身の患者への診療に情熱を注いでいる。

新たな教授として国際学会から招聘を受け、ドイツに発つことになる財前。論文の執筆など事前準備で多忙を極める彼に、里見は自身が受け持っている患者・佐々木の手術を依頼した。高度な技術を要する手術だが、財前の腕をもってすれば難はない。自身の見立てと外科的技術を信ずるあまり、気になる点を見つけた部下の進言を一蹴した。そのことが財前の運命を、そして里見の将来をも大きく狂わせていく…。

財前五郎という主人公は、はっきりとしたダークヒーローです。傲岸不遜、傍若無人、自身の成功と出世にしか関心がない。自分の腕に絶対の自信を持ち、その自分が権力を持つことは医学界のためにもなると信じている。

高い社会的地位にある人物が、自分の技術への過信から重大な見落としを行い、転落する。再三の映像化により、大筋はおおむね広く知られていますが、全5巻の長大な物語を読み進めることは派手なストーリー展開の行方を楽しむにとどまらず、大きな事件の渦中にある人物の心情、彼に振り回される人々の感情の揺れ、やがて彼を襲う過酷な運命とそれに相対する彼の心の変化と、克明な人間描写がいちばんの読みどころでしょう。

個人的には、物語のクライマックスは最終巻、病魔に倒れた財前を巡る周囲の人々の反応。煮え湯を飲まされた人物、権力闘争で彼の存在を利用していただけだったはずの人物が、一人の人間の生命の存亡の前に力を尽くそうとする。パワーバランスを超えたところに人の尊厳はあると、訴えているように思えました。

ドラマは、私が岡田准一ファンだからというだけでなく、創り手の情熱が感じられる力作。里見役、松山ケンイチも特筆すべき素晴らしさでした。