「万能鑑定士Q」等の人気シリーズの著者、松岡圭祐の近著をご紹介します。

内容 吉田琴美は早くに両親が離婚、働く母を助けるため奨学金で大学に通いながらコンビニで働いている。

イブの夜。店長に「外に販売台を置いて売り切れ」と命じられた琴美は寒い中で売り声を響かせるが、7個残ってしまった。1個3000円、自腹で買い取ると2万1000円。暗い気持ちになった琴美の前に中年男性が立ち止まった。やせて温和な目をしている。よく見る顔だった。「ノルマまであと何個?」「えっ」驚く琴美。いつも真面目によく働いている様子を見ていたという彼は琴美から数字を聞き出し、こともなげに7個を購入した。

「職場の仲間にあげる。すぐ近くだから持って帰れるよ」7つの箱を重ねて持ち笑顔で去った男は、琴美の胸に温かいものを残した。
その後も店に立ち寄り、琴美の姿を認めては笑顔を見せる彼。つらい時も、彼が来るかもしれないと思うと気持ちに張りができた。

だが、彼が福島第一原発近くの出身と聞きつけた店長が失礼な態度をとり、そんな日々に暗い影が射し始める…。(土曜日のアパート)
あまり例のない不動産ミステリー。瑕疵(かし)物件、つまり問題のある部屋をモチーフに、4つの物語が展開。探偵役の「瑕疵借り」専門、藤崎は細身でぶっきらぼうにしゃべる目立たない若者。しかしわずかな手がかりの意味を的確に見抜き、その物件の真の様相を正確に探り出す。賃貸住宅を軸にして、働き方や現代社会の家族のあり方などにスポットを当てる。一種の社会派作品といえるかもしれません。
最初の「土曜日のアパート」は泣けました。