2018年度市民教養講座最終回の講師は、沖縄出身のテノール歌手、新垣勉さん。沖縄駐留の米兵でメキシコ系アメリカ人の父、日本人の母の間に誕生。母は当時10代で、母方の祖母に育てられた。父とは会ったこともない。生まれて間もなく事故で視力を失った◆テーマは「ひとつのいのち ささえることば」。周囲の人がくれるメッセージ(言葉)が人生を左右する。新垣さんの人生を決めた決定的な言葉は、歌のオーディションを受けた時ボイストレーナーに言われた「その歌声はお父さんのプレゼントだ」という言葉だったが、もっと幼い小2の時にもらった言葉も講演では紹介された。唱歌「シャボン玉とんだ」を階名(ドレミ)でうたえるように覚えなさい、という宿題が出たが、忘れて怒られた。しょげていると近所の高校生が「教室のオルガンを、時間がある時いつも『ドレミファソラシド、ドシラソファミレド』と弾いてごらん」。言う通りにすると、どんな歌をきいても階名がわかるようになった。絶対音感の獲得である◆高校時代、教会の牧師に「大きくなったらアメリカへ行って父を殺してやりたい」と思いを吐露したという。笑顔にそぐわない激しい言葉にハッと胸を衝かれた。その時何も言わず泣いてくれた牧師も、大事なメッセージをくれた一人。父に背負わされた重荷を、その父から受け継いだ明るい響きの歌声が取り払ってくれた。その考えを受け入れられたのは、幼い心に自信の源を与えてくれる人がいたことも大きいのではないか◆「帰れソレントへ」「潮来笠」「星のフラメンコ」「アメージング・グレイス」。環境による悲しみから解放され、自由な表現力を得た新垣さんの歌声は、どこまでも突き抜けていくように伸びやかだった。(里)


