高校生のための教育講演会「和歌山未来塾」が御坊市で開かれた。今回は旧高野口町出身の生物学者で、東大先端科学技術研究センター(先端研)所長の神﨑亮平さんが講師を務め、ヒトとは違う昆虫の環境世界の話が面白かった。
 昆虫の複眼は圧倒的な視野の広さと、動くものを正確に追いかける動体視力のよさが特徴。ヒトは点滅する光を1秒間に60回まで認識できるが、それ以上になると点滅を認識できない。ミツバチはこれが310回まで点滅して見える。
 同じ地球の生物でも、ヒトと昆虫は世界の見え方がまったく異なる。ものの動きの速さが違うということは、時間の感覚も同じではないが、この感覚世界の違いは人間同士にもあり、成長のなかで見た映像、聞いた音が無限の記憶として脳に蓄えられた40歳の大人と、3歳の子どもでは同じものを見ても違うものに見えるはず。
 同じものを見ているはずが、じつはまるで違うものと認識されてしまう。話題の映画、是枝裕和監督の「万引き家族」はまさにこの個々の人間の生きる環境、見える世界の違いを逆説的に描いた作品で、砂浜ではしゃぐ家族はだれが見ても一見、幸せな家族に見えるが、じつはそうではない。
 人間は自身の経験と記憶からものの名前、使い方、食べ方、重さ、味などを瞬時に判断、理解して行動を起こすが、親のしつけも含め、生きる環境が違えば同じものでも、意味や価値が異なり、当然、思考も行動も違ってくる。
 「学校は家で勉強できないやつが行くところ」「スーパーに並ぶ商品はまだ誰のものでもない」という映画のセリフも、現実の紀州のドン・ファン騒ぎもしかり。お金はもちろん、人の命さえ相対的で、神﨑さんの話がよく分かる。(静)