「河井継之助 龍が哭く」が面白い。本紙3面の連載小説である。著者は秋山香乃、内容は幕末物
 連載開始時にも書いたが、河井継之助は一般的に決して有名ではない。越後長岡藩を壊滅させ、生き残った者に憎まれたという人物像が、冒頭ですでにネタバレというか読者に明かされている。「長岡を戦場に変えて散っていった」「数えきれない人々が、無残な最期を遂げた」「河井家の墓は何度建て直しても倒された」...どんな悲運の侍か、時代の潮流を読めなかったのかと思えば、一貫して人を惹きつけずにいない快男児として描かれる
 圧巻は8月に掲載した第162~169回の吉原の場面、最高級の花魁(おいらん)で龍笛の名手小稲との真剣勝負にも似たやりとり。昇龍の声に似るという小稲の笛を聴きたいと吉原に行く継之助。一見の客など気に入らなければ口もきかない格式高い花魁だが、小稲は継之助から経済の講義を聴いたのち巻紙に龍を描き始めた。ほどなく周辺で火事が起こるが、逃げずに描く。継之助も相対して座り、龍の誕生を見つめる。火が迫る中、天へ駆け上る龍の姿がほぼ完成。最後に継之助が筆を受け取り、眼を入れた。その絵は炎の中に残され、小稲を抱え逃げる継之助。小稲は古い笛を手に、力強い音色を響かせるのだった
 吉原一の花魁が見込んだ男にふさわしく、継之助は高い見識と行動力で藩の変革に取り組む。それが今後の展開なのだが、その先どのように継之助と長岡藩は悲劇へ向かうのか。彼等の運命を知っているからこそ目が離せない
 継之助を描いた司馬遼太郎著「峠」にもない、花魁と龍の絵の逸話を生み出した秋山氏の筆の
冴えは素晴らしい。これまで読んでいなかった人も、一度読んでみて頂きたい。 (里)