筆者の実家は山間部にあり、交通が不便な地域に住んでいた。少年時代を振り返ると、父親は仕事に出かけ、母親は車の免許を持っていなかったため日常生活で困るのが買い物だった。しかし、毎日、海岸の地域から食料品を積み込んだ軽トラックが決まった時間に訪れていた。その軽トラックが止まると、近くの住民たちがぞろぞろと集まってくる光景を思い出す
いまでもこうしたシステムは地域によっては存在しているが、JA紀州も移動販売に取り組み、今月20日からはみなべ町の高城、清川地区でも開始された。昨年9月からは日高町、由良町、美浜町で実施、10月からは御坊市、日高川町で始まり、今回は3地域目となる。高齢化に伴う買い物弱者に対応し、契約を結んでいる家庭に商品を届けるという内容。買い物だけでなく、高齢者が困っていることも手助けし、重い荷物の移動や電球の交換なども引き受けるという。高齢者の見守りも兼ねおり、出発式ではJA紀州の久保秀夫組合長が「販売先では声かけのサービスも行っていきたい」と話した
筆者の実家の地域に訪れていた移動販売では、集まった住民同士が「○○さんの娘さんが結婚したそうだ」、「○○さんが風邪を引いて寝込んでいるようだ」などというような会話が毎日交わされていた。そこにはコミュニティーの場が形成され、身近な情報を収集する場でもあった
都会では近所にどんな人が住んでいるか分からないという時代だが、田舎は人と人のつながりを深めやすい環境がある。移動販売は買い物弱者の救済だけにとどまらない。人と決まった時間に定期的に会うことが日常化されれば、防犯、防災など広範囲にわたって大きなメリットが生じる。地域に安心が届けられることだろう。(雄)