地元以外のことには関心が薄くなりがちな和歌山県民だが、「和歌山 地理・地名・地図の謎」(寺西貞弘著、実業之日本社)は県内全域の名所や歴史を知るのに格好の手引書となっている
 「友ケ島のレンガの廃墟がジブリ映画『ラピュタ』そっくりとアニメファンの人気を呼んでいる」などやわらかい話題も織り交ぜながら、元和歌山市立博物館館長の著者は、分かりやすい文章で熱を込めて各地の歴史を綴る。例えば、みかん王国和歌山の礎をつくった戦国時代の有田の住人伊藤孫右衛門の話。肥後へ行った時に、持ち出しが禁じられていた甘いみかんの苗木を「盆栽にするだけだから」と2株持って帰郷。無事に育った1株を接ぎ木して品種改良を重ね、やがてみかん畑が有田川の両岸いっぱいに広がったという
 和歌山の名は景勝地和歌浦に由来。若の浦だったが、古来大勢の歌人が大和歌を詠んだことから「和歌の浦」となり、豊臣秀吉が海側の和歌浦に対して山側を「和歌山」と呼んだ
 廃藩置県の際、新政府側の藩は県名と県庁所在地名を同じに、そうでない藩は別にされたと最近初めて知った。徳川御三家の紀州は新政府の敵なのになぜ同じなのか、不思議に思っていた。本書でも理由は分からなかったが、その後が面白かった。新政府から派遣された元勤皇志士の県令・北島秀朝が、和歌山のあった名草郡からとって「『名草県』にすべき」と主張したという。一度決めたものを変えると混乱すると却下され、和歌山の県名は無事に残った。あらためてみると、ロマンを感じさせる素晴らしい名だと思う
 どの土地にも歴史があり、物語がある。本書で日高地方に関する項目は7個。発掘しだいで、将来の類書にはもっと多くのことが載っているかもしれない。    (里)