御坊市制施行60周年記念事業「組踊特別鑑賞会」を取材した。組踊とは、ユネスコ無形文化遺産、国指定重要文化財の沖縄の歌舞劇。300年近く前の1719年に初演された
 琉球の歌舞劇ときくと明るくテンポのいい踊りを想像しそうだが、組踊は能楽などを基に創作されており、ゆったりと優雅な動きで物語が進行する。今回演じられた「執心鐘入」はいわゆる道成寺物で、中城若松という美少年が言い寄る宿の女を拒否して命をとられそうになり、寺の鐘の中にかくまってもらう話。女が追ってくると若松は密かに鐘から助け出してもらうので、安珍と違って死なずに済んでいる
 実際に鑑賞して印象的だったのは、うたうような台詞の旋律。言葉は変わっても同じ節回しが繰り返される。沖縄音楽独特の、南国の太陽を思わせる明るいメロディーだ。能や歌舞伎の道成寺物とは設定など細部が異なるが、最大の違いはこの点かもしれない
 ネットで組踊について調べてみて、「執心鐘入縁起」という昭和21年作の戯曲があることを知った。著者は、日高地方にも歌碑が残されている民俗学者で歌人の折口信夫。組踊の創始者玉城朝薫(たまぐすく・ちょうくん)が創作を決意する心境を描く、いわば「メイキング・オブ執心鐘入」だ。その中では、朝薫は都からはるか離れた故郷に文化の息吹を吹き込みたいと願った人物として描かれる。雅やかなリズムの地謡を聴き、組踊を見ると、確かに当時の貴族文化が結晶しているようにも思える。南国特有の明るさをそこに織り込みながら
 一つの文化が一人の創作者を通して別の土地に運ばれ、そこの空気と融合してまた新たな作品が生まれる。文化の伝播の面白さを、この組踊に感じた。 (里)