平成24年9月、御坊市湯川町小松原、JR御坊駅前の旅館コトブキ経営の吉井幸子さん(当時71歳)が殺害され現金が盗まれた事件で、強盗殺人の罪に問われた住居不定、無職井倉孝司被告(61)の裁判員裁判の論告求刑公判が19日、和歌山地裁(浅見健次郎裁判長)であった。検察側は「犯行は身勝手で人間性のかけらもない」と厳しく非難し、無期懲役を求刑した。判決は20日に言い渡される。
 検察側は、定職につかず知人からの借金で生活し支払いのめどもないまま連泊し、所持金が底をついて吉井さんから精算を求められると縛り上げて逃げようと企て、アジさき包丁を突き付けて大声を出されると殺すしかないと犯行に及んだ経緯を「あまりにも身勝手で短絡的。人命軽視も甚だしい」と指摘。犯行についても「なんとか助かろうと床をはう吉井さんの首をひもで絞め、刺し身包丁で突き刺しており、執拗で人間性のかけらもない凶悪な犯行。孫の成長を楽しみにし、客のために営業を続け、支払いの滞った被告に対しても心配すらしていた吉井さんに何の落ち度もなく、無念さは想像にあまりある」とし、「被告が自殺を考えていたなどと軽々しく口にするのはあまりにも無責任で、怒りを禁じ得ない」と非難。犯行後、奪った金をビールの購入や居酒屋ですぐに使い切っている点も「自戒の念は皆無」と断罪し、死刑も考慮すべきだが、計画性などがないことを踏まえ「無期懲役が相当」と求めた。さらに遺族の思いを検察側が代弁し、「捜査段階で調書への署名を拒否したり、犯行後も自殺や自首しようと思っていた者の行動とは思えず、真摯な反省はまったくみられない。最も苦しい刑を望みます」との言葉が読み上げられた。井倉被告は最終陳述で「自分の命をもって償うしかありません」とこれまで通りの言葉を繰り返し、弁護側は突発的な犯行であることや社会復帰後に支えてくれる友人がいることなど説明。「被告の年齢を考え、社会復帰が可能な懲役19年が相当」と求めた。