2回連続でソチ五輪について書いたが、いっそのこと3回目を書いて締めくくりたい。テーマは、期待されたメダルではなく思いがけない感動を日本にもたらした、女子フィギュアスケートの浅田真央選手。
 ショートプログラム、最初のトリプルアクセルで着氷時に転倒。以後の演技は精彩を欠き、結果は16位となった。そして迎えた翌日のフリー、最初のトリプルアクセルで軽やかに着氷。ホッとしたようなどよめきと拍手の中、それが呼び水となったように3回転ジャンプを次々にクリアしていった。
 トリプルアクセルは、国際大会で成功させた女子選手が現在までわずか5人という難易度最高の技である。それを含む6種類8個すべての3回転ジャンプを成功させて演技を終えた瞬間、浅田選手は顔をくしゃくしゃにし、涙をあふれさせながら笑顔を見せた。その映像は多くの人の胸を熱くした。観客席では目を赤くした高橋大輔選手らの姿も映し出され、「これが浅田真央です」と実況中継のアナウンサーは叫んだ。
 放心状態にさえ見えたショートプログラム終了直後の映像からわずか一日後の挽回。世界中の人々が注視しているという想像を絶するプレッシャー、前日の失敗の生々しい記憶。それらを超え、全身全霊をかけて孤独な闘いに臨み、打ち勝った。メダル獲得とは違う次元の感動を与えてくれた。
 スポーツにおける本気の勝負は、人が内に秘める可能性を形にして表す。それを見ることは、どの分野にいる人にも力となる。その力が世界を少しでもいい方向へと動かす原動力にならないものかと思いながら、閉会式の翌日、ロシアの隣国でかつてソ連の一部だったウクライナ政権崩壊のニュースを見ていた。  (里)