12月1日は世界エイズデー。30年前のウイルス発見時、原因不明の死の病として恐れられたが、1987年には抗HIV薬「AZT」が開発され、その後もウイルス増殖を抑える酵素標的薬が次々登場。現在ではまだ完全に治すことはできないものの、複数の薬を同時に飲むことで、感染していない人と同程度の免疫を維持することが可能になったという。
 体内で病気を発症させ、さらに別の人に感染して病気を引き起こすウイルス。世界中の医師、科学者が新しい治療法、薬の開発研究に取り組んでいる。だれもがかかる恐れのある怖い病気に対しては、国家も莫大な研究資金を投入し、認可、販売に至るまでの製薬企業などの権利争いも激しいものがあると想像される。
 デヴィッド・クローネンバーグの息子が撮った初の長編映画 『アンチヴァイラル』 は、「憧れの人と同じ病気になることで、その人により親近感を覚える」という倒錯したファン心理を強引に広げ、有名人のウイルスを商品として売買する近未来の社会を描いた。美人セレブのウイルスは行列ができる人気。映画としては面白い発想ではある。
 映画の世界の有名人のウイルスはともかく、特効薬の研究が進む現実の世界のウイルス、さらにネットを介して変異、進化するコンピューターウイルスも、そこには利権と権謀術数が渦巻き、人の健康と社会の安全を守りたいと純粋に願う医師や研究者も巻き込まれ、本来の目的、本分を見失いかねない。
 ウイルスよりも恐ろしいのは、それに対抗する人の心を狂わせる金。医師や弁護士、警察官でさえ抗し難い。幼稚でストイックな正義こそがこれを阻害できるのだが、この免疫力の維持が何より難しい。(静)