ノーベル医学・生理学賞を受賞した京都大の山中伸弥教授が開発したiPS細胞は、まさに夢の細胞である。これまでは移植手術を受けるためには提供者が必要だったが、将来的には自分の細胞で作った臓器を自分に移植できるようになることが期待されている。もちろん研究は始まったばかりで、いろんな問題をクリアしていかなければならないが、一日も早い技術の確立は、すべての人の願い。移植を待っている患者の方々はたくさんいる。財政事情は厳しくとも、このような本当に世に役立つものへは国を挙げて支援してもらいたい。細胞という肉眼では見えない小さなものが、苦しむ人を救う。科学の進歩のたまものではあるが、科学というより、他人のことを思う人間らしさがあふれている。
 一方で、インターネットの世界では、人間らしさが徐々に失われているように思えてならない。姿を見せずして人を誹謗中傷したり、とうとう他人のパソコンを遠隔操作し、なりすまして悪事を働くやからまで現れた。遠く離れた人に悩み事を相談できたり、簡単に買い物ができたりと多くのメリットがある半面、一歩間違えば身に覚えのない罪をかぶせられる事態になりかねない世の中。ネット犯罪の厳罰化を含めた対策が必要である。
 今回のなりすましの件はごく特定の犯罪者の仕業ではあるが、今後もっと巧妙な手口が出てくる可能性は十分ある。何より何の関係もない善良な一般人を狙っているところが怖い。ネット犯罪には後手に回っているが、目に見えない敵との戦いに敗北してはならない。いろんな人間がいるのが世間だが、山中教授のように人間らしく生きる人が多い世の中を願う。  (片)