バスジャックが発生した場合の対応を学ぼうと、御坊南海バス㈱(那須敏明代表)と御坊署などは19日、実際に犯人が乗っ取った路線バスを走らせての大がかりな訓練を実施。犯人役の警察官が乗客2人を短刀で刺し、「大阪へ行け」「みんな道連れじゃ」などと大声で脅す迫力満点の演技を披露。運転手が的確に対応し、最後は御坊署が日高川河川敷に誘導して取り押さえ、万一の事態に備えて連携を確認した。
 市内薗の御坊南海バス本社前で、乗客8人を乗せた路線バスが発車しようとしたところ、釣り客を装った男が突然バスに乗り込み、短刀をちらつかせながら「騒ぐな、大阪へ行け」と大声を張り上げて乗っ取った。興奮状態の犯人は運転手に「ややこしいことすんなよ。いらんことしたら客刺すぞ」などと脅し、前の方に乗っていた男性客2人を短刀で切りつけ、「こっちは本気やぞ」と凄んだ。バスは国道42号を南下し、名田町で気分が悪いと訴えた女性客1人を農免道路で降ろしたあと、御坊南インター前を通って御坊インターへ向かった。車内で犯人は「もうやってられへん」「大阪へ行ってバスで突っ込むんや。みんな死ぬんや」などと絶えず独り言をつぶやき、「わし土地勘ないけど、ちゃんと御坊インターに向かってるんやろな。もっとはよ走らんかい」「お前ら携帯電話持ってないやろな、ポリにいうたら刺すぞ」と短刀をつきつけながら走行距離約30㌔、約40分の走行中、運転手と乗客を威嚇し続けた。
 バスジャックが疑われる通報を受けた御坊署はパトカーではなく捜査車両で捜査を開始。県警ヘリコプターも出動し、コースを外れて走行するバスを発見すると気づかれないよう追尾を始めた。途中で降ろされた女性からの聞き取りでバスジャックと断定。御坊インター周辺の道路を封鎖し、バスを野口新橋下の日高川河川敷に誘導。バスを包囲して態勢を整えると、運転手に説得されて降りてきた犯人の身柄を確保。要請を受けて待機していた市消防救急隊が刺されてケガをした2人を病院に搬送し、訓練は終了した。
 一連の対応をバスに乗車して見守っていた御坊署の志賀秀行副署長は講評で「初めての訓練だったが、うまく対応できていた。バス会社の皆さんも署員も、万が一のときはきょうの訓練を生かそう」と激励し、日ごろからの連携強化を呼びかけた。運転手を務めた同社の長田昌万さん(42)は「犯人役の迫力に圧倒されましたが、乗客を落ち着かせるためのアナウンスなどマニュアルを実践でき、非常にいい経験になった。乗客の安全を守るための犯人とのよりよい交渉の仕方など、これからも勉強していきたい」と防犯意識を高めていた。乗客役として乗車した同社の米田智哉総務部係長は「冷静に対応できるかが重要だと感じた。今後も研修を重ねていきたい」と話していた。