印南町印南の「介護タクシーふくしん」(日下典子代表)が30日、日高広域消防から「患者等搬送事業者認定証」の交付を受けた。救急車が必要でない軽傷患者の搬送や寝たきり患者を搬送するため、専用車両を導入し消防での講習を受講した業者だけが受けられる認定証で、日高地方第1号、県内で3番目。救急出動が年々増加している中、同消防では業務の負担軽減にもつながると期待している。 介護タクシーふくしんは、「車いす利用者やケガなどで歩行困難な人の外出を支援したい」と、典子さん(52)と善弘さん(55)夫婦が昨年6月1日から運行をスタート。車いすに乗ったまま乗り込める軽乗用車1台で営業していたが、寝たきり患者の家族らからの要望にも応えたいと、ストレッチャーを搭載した車両の導入を検討。インターネット等で調べると、急病患者搬送が増加していることに伴い、各消防が「患者等搬送事業者」を認定している制度があることを知り、夫婦で挑戦することにした。
 認定を受けるためには、専用車両を導入し、消防で24時間の講習を受ける必要があり、日下さん夫婦は仕事の合間を縫って約1カ月かけて心肺蘇生法のほか、ストレッチャーの扱い方、部屋から車までの患者の安全な搬送の仕方、医療に関する知識の講習と実技を受け、テストに合格したことで今回、認定証が交付された。導入した専用車両はトヨタ「ノア」で、後部のドアを開けるとボタン一つでスロープが降り、患者を乗せるストレッチャーもウインチで自動で操作できる。もしもに備えて肺に空気を手動で送るマスクやガーゼ、三角巾、簡易担架なども搭載している。
 認定証を手渡した佐々木一消防長は「救急出動は年間2500件前後。約6割が急病患者だが、うち46%は入院等の必要がない軽傷患者。民間の事業者が軽傷患者搬送の一翼を担ってくれれば救急業務の負担が軽減され、本当に救急車を必要としている患者へ迅速に対応できるようになる。1年に1回の車両調査、2年に1度の再講習受講など事業者には負担を強いることになるが、しっかり頑張ってほしい。今後も認定事業者が増えるきっかけになればうれしい」と期待を込めて激励した。日下さんは「緊急走行はできませんが、少しでも消防業務の負担軽減につながれば地域に貢献できると思い挑戦しました。認定証を受けて責任の重さをひしひしと感じています。病院への搬送や退院、転院だけでなく、買い物や観光など寝たきりの人や家族の外出を支援できればうれしい」と話している。料金は一般のタクシーと同程度で、詳しい問い合わせは「ふくしん」℡⑳5272まで。
 患者等搬送事業者認定制度は、増え続ける救急搬送の軽減につなげようと国を挙げて取り組んでおり、都会ではかなり普及しているが、県内ではまだ定着しておらず、今後の広がりが期待されている。