本紙3面で、昨年5月31日から1年近く連載している小説、あさのあつこ著「かんかん橋を渡ったら」。物語もいよいよ終盤に入っている
前作は時代小説、荒山徹著「砕かれざるもの」。1回ごとに手に汗握る展開が面白く、読者からも好評をいただいた。代わって始まった「かんかん橋」。中国地方の津雲という小さな町で暮らす人々の日常を丁寧に描く。一読者としては、波乱万丈の前作と比べ少し物足りないかなと感じていた。だが毎日読み進むうち、印象は大きく変わっていった
戦争という時代を乗り越え家族を守って生き抜いてきた写真屋の菊ばあちゃん。駆け落ち同然に結婚した夫が都会へ行き、子どもを抱えて窮地に陥ったが周囲の人々の温かさで立ち直る珠美。会社の借金を背負って行方をくらました父の帰りを待ちながら母と妹を支え、野球に打ち込む中学生恭介。母が幼いころ家を出て行き、父の再婚に揺れる小料理屋「ののや」の娘真子。しっとりと丁寧な描写ゆえに、1人1人が抱える等身大のドラマが読む者に自然に伝わる。著者のあさの氏は児童文学の人気シリーズ「バッテリー」で知られる。登場人物のきめ細かい心理描写が特徴だ
新聞小説は、不特定多数の読者を毎日飽きさせず先へ連れていかねばならず、エンターテインメント性が求められる。だが本当に人の心を打つ作品は、エンターテインメント系であってもその奥に普遍的な要素、いわば純文学的な価値を持つように思う
最終回まであと1カ月足らず。今まで通して読んではいなかった方も、最終章だけでも目を通してみられてはと思う。少しずつ切り取って読んでもある程度のことが伝わってくるのが優れた新聞小説だ。 (里)

