別れと出会いのこの季節に筆者にとって毎年、欠かせない大事な仕事がある。日高川町川辺西小学校にある「卒業桜」と呼ばれる早咲きの桜の取材である。花は一重でソメイヨシノに似た薄紅色。種類などは不明の桜で、入学式の頃に満開となるソメイヨシノと違い、卒業式前後が見ごろとなる同校の名物。長年にわたり、卒業シーズンを彩る花として地域の人々に親しまれている。筆者もこの桜の写真を撮るのが楽しみで、この時期になると開花状況を確認するため、頻繁に学校に足を運ぶ。
 この桜は、同校が矢田尋常高等小学校時代の昭和13年、児童らが卒業記念として植樹した。以来、木いっぱいにかれんな花をつけて学びやを巣立つ児童を見送っている。歳月は流れ、多くの花をつけた桜も高齢で10年ほど前から衰弱が著しい。そんな中でも生徒や教職員、地域の人々らの心配をよそに毎年花を咲かせている。筆者も「よかった」と胸を撫で下ろし、かれんな花をつけた美しい姿からは想像もできないたくましさに感じ入った。おととしには栄養が行き渡るように大きな枝を切り落とし、昨年も見事に50~60輪の花を咲かせた。
 この桜のクローン苗木で育てた後継樹は今月10日に開花。順調な生育ぶりを見せているのに対し、植樹から74年目を迎えた母樹の方は時期が来てもつぼみが確認されず開花が危ぶまれたが、19日にはつぼみがちらほら。ただ1本の枝だけで、ことしの花が多くの卒業生の心に幼き日の思い出とともに宿る卒業桜のラストフラワーになるかも知れない。花を咲かせ、22日には巣立つ子どもたちを見送るが、できれば1年でも長く子どもたちの成長を見守ってほしいと願う。    (昌)