先日、印南町出身の芥川賞作家辻原登さん(65)の講演会を取材した。作家の講演会は初めてで、「人類の始まりはアフリカの...」と難しそうな出だしだったが、白浜や印南の名前の由来や、最後はちょっと不思議な短編の朗読など、全体的にはわかりやすく面白い内容だった。
 中でも印象的だったのが、日本の文字の始まりで、普段、何気に使っている「漢字」の話。もともと日本には言葉はあったが、文字がなかった。そこへ中国から学生時代国語の授業でおなじみの漢語が入ってきた。日本人が最初に漢字を見たときは、言葉を記号化したものとは気づかず、呪文やまじないかと思ったという。どうやって取り入れたのかは、例えば「雪」の場合、漢人に雪を見せて、「これはどんなに書くのか」と訪ね、「雪」と書いたのを見て、日本では「雪」と書いて「ゆき」と読むようにした。この方法で、あらゆる漢字を取り入れていった。もし日本に入ってきたのが英語なら「snow」と書いて「ゆき」と読むようになっていたかもしれないので驚きだ。さらにこういった他国の文字を取り入れているのは世界でも日本だけという。ただ漢語が現在の日本語になっておらず、ひらがなやカタカナができたのは「当時の日本人が歌の読みを後世に残したかったから」と辻原さんは言う。
 パソコンや携帯電話などの普及により、漢字離れが進んでいる。正直なところ筆者もとっさに思い出せないことが多い。辻原さんの講演を聴き、1000年以上も前の日本人が数百年試行錯誤を繰り返し作り上げてきたこの日本の文字を、衰退させることなく大切にしていかなければならないと感じた。    (城)