恥ずかしながら先日取材で「御坊人形」の実物を初めて見た。制作の全工程が手作りというだけあって顔の表情や衣装の色彩などに繊細かつ素朴な魅力があると感じた。その御坊人形の継承者の田中丈助さんは「もう76歳でいい年やからそんなにデコ(人形)はよう作らんよ」と話していたが、なんのなんのお元気そうで、取材中はよくしゃべって、耳もよく質問にしっかり答えてくれた。
そんな田中さんはこれまで有名な「御坊天神」だけでなく、さまざまな形の御坊人形を制作した話も教えてくれた。例えばプロ野球の阪神優勝の際にトラの人形を作って阪急百貨店で売ろうと張り切っていったが、結局のところ機械化で大量生産できる阪神関連の商品に太刀打ちできなかった苦い経験。さらには徳川吉宗ブームに乗じて吉宗人形を作ったが、「葵の御紋」を書き入れるのに手間がかかり過ぎて、労力と対価がつり合わなかったこと。また、宮子姫の人形を作って東京で売ろうとしたが、宮子姫のことが知られておらず、いま一つだったことなど。
いずれもあまりうまくいかなかった話だが、ブームに乗ろうと考えたり、20年前に宮子姫に目をつけたりするチャレンジ精神は、大いに勉強させられるものがあった。制作の技術はもちろん、そのチャレンジ精神はまだまだ現役で、田中さんは「若い女の子が喜ぶような御坊人形を考案したらいいと思う。カップルに喜ばれるような男女のアベック人形もいいかもしれない」と話す。そんな元気な姿をみていると、まだまだ貴重な伝統工芸の技術が廃れることはないだろうと感じ、安心した。 (吉)

