ことしも、御坊市薗の阪本弘子さん(78)宅でハス池を観賞させていただいた。朝日の明るく射す池で、清楚な白、愛らしい薄紅色とそれぞれの色や形を生かしきって咲く花々にはすがすがしい美しさがある◆弘子さんの亡き夫、元日高高校教諭で「ハス先生」と慕われた阪本祐二さん(昭和54年他界)が遺したハス池。弘子さんから解説を聞くと、30種類それぞれに物語があることに感心する。中でも舞妃蓮は御坊市で生まれたハス。天皇陛下が皇太子時代にアメリカから持ち帰られた「王子ハス」と大賀ハスとをかけ合わせ、祐二さんが作り出した。皇室に献上、御所では大切に栽培され、毎年夏には広い池で何輪も咲き誇る◆その大きな写真が掲載された天皇陛下喜寿記念写真集「御所のお庭」が先月、美智子皇后の心遣いで弘子さん宛てに贈られた。その時はハス池の開花はまだだったが、数日後、30種類の中から舞妃蓮が真っ先に咲いた。そういえば北京五輪の年には、中日友誼蓮という日中友好の証のハスが珍しい「双頭咲き」を見せた。1本の茎に2輪が咲いたのだ。自然のいたずらというより、ハスに心があるようにさえ思える◆美浜町三尾の大賀ハス池、栽培3年目の御坊市北塩屋の舞妃蓮、そして阪本さん宅。当地方でこれだけハスが根付いたのはそもそも亡き祐二さんと恩師の大賀一郎博士との縁のお陰だが、ハスは手をかけなければたちまち枯れる。祐二さん亡きあと30年以上にわたり、見事な花をいっぱいに咲かせる池。その裏には、草取りや水やりと我が子のように親身に世話する弘子さんの苦労がある◆花々が光の中で風に揺れる見事な情景は、弘子さんの心にハス達が応えているようにも思われる。   (里)