富良野GROUPの公演「歸國」を鑑賞した。取材担当ではなかったので、券を買っての個人的な観劇である。南の海の底に眠っていた英霊が、幻の列車で東京駅へ帰ってくる物語。故国の「いま」を仲間に伝えるために◆筆者の父の兄は第2次大戦中海軍に召集され、南方の海で船が撃沈されて亡くなった。享年23歳。遺影と、父からきいた断片的な話のほかには何も知らない。遺骨も何も戻らず、戦死の知らせを受けた祖母は煙樹ケ浜で海に向かって伯父の名を呼び、泣いたそうだと母にきいた◆舞台の若い兵隊達の姿に、伯父のことが思われてならなかった。歴史上の人物のようで実在感のなかった伯父が、この世で23年間確かに生きてきたのに理不尽な戦いで命を落としてしまったんだなという思いが、初めて胸に迫った。劇中で英霊達の元上官が、入居中のホームで「あいつらが帰ってくる」と盆の迎え火をたこうとし、火気厳禁だと職員に止められるあたりから涙が止まらなくなった。英霊の無念が自分の感情のように心に食い入ってきた◆心貧しい今の風潮への英霊達の憤りを胸にずしりと感じながらも、現代が昔よりひどい時代だと簡単に納得してしまうことこそ、礎を築いてくれた先人に申し訳ないのではないかと思う。人や街が様変わりしても、変わらないものは確かにある。誰かの真摯な声に反応して震える心が、その声にこたえたいと願う心がある限り、まだこの国は駄目になってしまってはいない◆そんな心が未来を模索する光となって行く手を照らすよう、先人がこの世を見た時に鳴らすであろう警鐘を受け止めなければならない。本質に立ち返って、大切なものを見極めなければならない。本来あるべき人間らしい社会へ、少しずつでも帰っていけるように。  (里)