荒山徹氏の本紙連載時代小説「砕かれざるもの」が29日付で、第200回をもって終了した。連載中から「この続きが読みたいから、新聞が届くのを毎日楽しみにしている」とのお声をいただくなど、好評を博した。ご愛読に感謝申し上げたい◆歴史の中には、有名・無名含めて無数の物語が内包されている。史実を軸に、陰の部分にまで想像力の触手を伸ばして、新たに一つの物語を構築する。著者のその構築力を楽しむのも、歴史小説の醍醐味だろう。「砕かれざるもの」は、史実に残る最初の流人となった宇喜多秀家という個性的な戦国大名の存在を軸に、将軍家対加賀百万石前田家という表舞台にはない戦いの構図を出現させている◆主人公と柳生一族に宮本武蔵ら剣豪の戦い、キリシタン王国を夢みて果てた高山右近、そして老いてなお凛然たる威厳を持つ秀家が藩祖前田利家の娘豪姫と貫いた堂々たる愛と、読者を楽しませる工夫もふんだんに用意。エンターテインメント性に富むうえ余韻の残る傑作であった。砕かれざるものとは、権力者の意のままに潰される運命を主人公の命を賭した戦いで退けた加賀前田家の誇りであるとともに、亡き師の教えを胸に幾多の過酷な試練を経てしなやかに成長した、秀家の血を引く主人公の若き剣士の心をも指すのかもしれない◆本日の紙面から新連載小説、あさのあつこ著「かんかん橋を渡ったら」がスタート。著者はベストセラー「バッテリー」で知られる児童文学作家。心理描写や自然描写がきめ細かく、読者を惹きつける作家である。順を追って少しずつ読むうち物語が一本のラインとなって動き出し、やがて一つの世界を構築する。そんな新聞小説の醍醐味を味わうためにも、ぜひ第1回から欠かさず読んでいただきたい。   (里)