俳優の児玉清さんが亡くなった。多くの人にとって「理想の父親像」であったという。30年来のファンで、司会の「パネルクイズ アタック25」は欠かさず見ていた。昨年5月29日には御坊市を訪れ、市民教養講座で講演。取材から1年も経たず訃報に接するとは思ってもみなかった◆30年前のNHK大河ドラマ「獅子の時代」では、菅原文太演じる主人公の会津藩士を支える商人瑞穂屋卯三郎を演じていた。あまり感情を見せず淡々としているが、常に折り目正しい物腰と言葉遣いで誠実な行動を貫く役柄。こんな渋い役どころの人がなぜ子ども心に印象に残ったのか分からないが、「児玉清」の名はこの時しっかり覚えた◆御坊市民教養講座の際に歯切れのよい口調で語られたのは、反骨精神に支えられた俳優人生、かかわる人や出演者への温かい視線、豊かな読書から得た泉のように湧き出る知識。児玉さんの人となりに直に触れられたようで、大変意義深いひとときだった。その後、著書で娘さんを病で亡くされたことを読んだ。毎週変わらない笑顔の裏にそんな悲しみを抱えておられたことを知り、胸が詰まった◆きりりとした礼儀正しさと温かみをいつも感じさせてくれた「アタック25」の司会。この時間にこの番組にチャンネルを合わせれば、だれしも心の奥底で求めている良識と品位に出会うことができる、その安心感をみんな感じていたのではないかと思う◆「獅子の時代」の作者山田太一氏が、児玉さん主演のドラマを書き下ろしていたことを全国紙のコメントで述べていた。本読みに入る前に入院されたとのことで、大変残念であった◆これまでテレビ画面を通じて、指針のように「理想の父親」であり続けてくれたことに感謝しつつ、謹んでご冥福をお祈りしたい。        (里)