市内御坊の老舗和菓子店有田屋で、元市職員の塩崎正三さん(市内島)の人形展を取材した。ひな人形ときいていたが、通常の段飾りとはまったく違う、咲き誇る桜の下で花見に興じるひな達の宴だった◆一体一体、ポーズも表情も衣装も違う精巧な造りが素晴らしい。お内裏様とおひな様も「二人並んですまし顔」ではなく、おひな様をお内裏様が支えるような姿勢で花を眺めている。お話をうかがうと、人形よりも大変なのは桜だったとのこと。工夫しながら作る人形は作業も楽しいのだが、おびただしい花びら1枚1枚をひたすら地道に作っていく作業は「ちょっとしんどかった」という◆当地方でも本格的な春の訪れを告げる桜が少しずつ開花し始めているが、「花は桜木、人は武士」という有名な言葉が一休禅師のものだったと最近知った。「柱は檜、魚は鯛、小袖はもみじ、花はみよしの」と続くそうだ。最初の2句が有名なのは、桜と武士は潔いイメージに通じるものがあり、対句のように読めるからだろうか。だが桜にはそのイメージに加え、華やぎと明るさもある◆日本の象徴であるこの花は、時期的に別れと出会い、冬から春への再生を象徴する花でもある。気象庁の桜開花予想は民間の参入によって昨年から中止されたが、「桜前線」とは美しい言葉だと思う。次々に咲いていく花々は、日本全土を北上する春の使者だ◆ショーウインドーの中のひな達のかわいらしい宴には、見ているだけで心が浮き立つ大らかさがあった。節電の必要から、桜の名所では夜のライトアップ等も控えられているが、殊更に花見の宴を開かなくとも、花の下に立ち春の訪れを思うだけで、心に灯りがともることもある。 (里)

