春は別れと出会いの季節。日高川町川辺西小学校の「卒業桜」と呼ばれる早咲きの桜が、先月28日に開花した。花は一重でソメイヨシノに似た薄紅色。種類など不明だが、ソメイヨシノより2~3週間早く咲くため、卒業シーズンを彩る花として長年にわたり親しまれている。
 あるエピソードを紹介したい。話は73年前にさかのぼる。この桜は、同校が矢田尋常高等小学校時代の昭和13年に児童らが卒業記念として植樹した。以来、このシーズンになると木いっぱいにかれんな花を付け、学び舎(や)を巣立つ児童らを見送っている。そんな中昨春、京都から日高地方出身の岡本さんという人物が息子と孫とともに同小を訪れ、卒業桜の下で記念撮影を行い、3世代一緒に写真に収まった。府内の小学校に通う孫の卒業記念だったという。実は岡本さんの亡き父が昭和13年当時の校長で卒業桜と縁が深く、岡本さんが卒業桜を母樹とする後継樹、クローン桜の新聞記事を見たことがきっかけで、父の歩みを知りたいと思うようになった。以来、父の足跡を知るために何度か同校へ足を運んでいるらしいが、記念写真は亡き父のこととともに70年以上も地域で愛されている卒業桜を子、孫へも伝えたいという思いからだった。
 歳月は流れ、多くの花をつけた桜の木も近年は高齢から衰弱が著しい。昨年には栄養がいきわたるようにと大きな枝を一つ切り落としたほど。しかしそんな心配をよそに、ことしも見事に咲かせ、50~60輪の花を付けそうだ。卒業生をはじめ、岡本さんら関わりある人々の心に、いつまでもセピア色の幼き日の思い出とともに宿る卒業桜。1年でも長く、後継樹の成長と子どもたちの元気な姿を見守っていてほしいと願う。   (昌)