20108013-2.jpg 護摩壇山に源を発し、田辺市龍神村から日高川町、御坊市を経て海へと注ぐ日高川。流域は1年を通して温泉やアユ釣り、キャンプ、紅葉見物などの行楽客が訪れる。限界集落という自治機能を果たせない過疎地域も増えつつあるなか、この日高川でつながる地域の魅力を掘り起こし、各地の自然や文化、歴史の観光資源を広く情報発信しようというプロジェクトが動き始めた。シリーズ 「田舎暮らし」 最終回は、移住者の視点で田舎の魅力をさぐる龍神村開発公社ふるさと事業部の皆さんを訪ねた。
20108013-1.jpg メンバーは、公社が運営する温泉宿「季楽里龍神」支配人の寒川省三さん(53)、前田有加さん(46)、小西健治さん(55)、幸田正夫さん(38)の4人。公社は季楽里龍神の運営をはじめ、ミネラルウォーター「龍神の自然水」の販売、森林公園の管理などの事業を展開するなか、広域観光商品の開発も以前から推進。4人の取り組みは、昨年、国のふるさと雇用再生特別基金を活用した県の企画提案事業に応募、県内の広域観光旅行商品や特産品の開発・販路開拓をより多角的に進める計画が採択された。この新規事業により、以前から公社にいた寒川支配人と前田さんのほか、新メンバーとして新たに東京から小西さん、広島から幸田さんをIターンの形で雇い入れ、昨年10月からプロジェクトが始動した。
 具体的な取り組みでは、広域観光商品の開発に向け、龍神を中心とした地域の魅力を発信するフリーペーパー(季刊)の発行、インターネットでの情報発信などがあり、現在は前田さん、小西さん、幸田さんの3人が県内各地の観光資源を調査、取材している。1つのテーマとして進んでいるのが、徳川藩主が和歌山城から一直線、尾根沿いに湯治場の龍神温泉まで歩いたといわれている「龍神街道」。和歌山市のお城から日前宮、伊太祈曽神社、野上八幡神社(紀美野町)、神野市場(同)、清水を経て城ケ森山、小森谷へ入り、龍神温泉まで来たと伝えられ、これらを1つずつ調べてつなぎ合わせ、熊野古道にも負けない観光コースとしてよみがえらせたいという。
 龍神村から御坊市まで日高川でつながる日高地方も、前田さんたちがツアーの商品化を検討。龍神温泉は京阪神を中心に全国各地から観光客が訪れるが、多くは世界遺産の高野山とセットで「和歌山」を楽しむ人たち。観光ルートとしては圧倒的に高野・龍神スカイラインを利用した高野山からの流れで、冬場にはスカイラインが通行規制されるため、客足は激減するという。一方、高速道路は現在、田辺市まで延びており、広川、川辺、御坊、みなべなどの各ICから客を呼び込むことが課題となっている。
 地域の魅力を発信していくうえで、おもしろいのは前田さん、小西さん、幸田さんの3人ともIターンの移住者であるという点。前田さんは和歌山市だが、東京でコピーライターをしていた小西さんは千葉県から、奈良出身で青年海外協力隊の経験もある幸田さんは広島から龍神へやって来た。とくに都会暮らしが長かった小西さんは見るもの、聞くもの、食べるものすべてが新鮮で、「東京にないものでいえば、まずはこの目の前に迫る山の斜面。大きな平野の東京では、山といえばビルのはるか遠くにかすむ山の稜線なんですが、この緑がドーンと迫る風景には驚きました。あと、底が見える川の水の美しさ、森のフィルターを通ったすがすがしい空気、いつでも食べられる新しい魚など、田舎の魅力は挙げればキリがありません」。幸田さんも生まれは奈良の田舎だが、龍神は「なによりもこの山の深さ、川のせせらぎに癒されます。また、古くからある木造の家のつくり、太い梁1つにも歴史を感じますね」という。
 自然や歴史、文化のほかにも、Iターン移住20年以上の元シェフ、老舗温泉旅館の社長、林業を営む人たちにスポットを当て、植林事業の歴史など「温泉だけではない龍神の魅力」もPRしていく。リーダーの寒川支配人は「私は龍神生まれの龍神育ちで、外からの視点はありませんが、彼ら3人の目で見た龍神、日高地方は、私たち地元の者が気づかない魅力もたくさんあるはず。もちろん、日高川町や御坊市など他のまちの人たちのご支援・ご協力もいただきながら、いろいろ調べていくうちに新たな魅力を見つけてくれると思います」と話している。
 スタッフ募集中 龍神村開発公社ふるさと事業部では、観光商品・特産品開発の分野でWebサイトの開設を計画しており、現在、スタッフを募集している。ホームページを一から作ることができ、特産品販売などネットビジネスに興味のある人。勤務地は龍神村龍神、「季楽里龍神」内の公社事務所。 詳細は同事業部℡0739―79―0090。