
食欲の秋にぴったりな1冊、井上荒野さんの「キャベツ炒めに捧ぐ」を紹介します。
この本は惣菜屋「ここ家」を舞台にした物語です。60代の女性3人が季節の食材を使った料理を作りながらお店を切り盛りしています。3人はそれぞれ家族との別れなどを経験していて、普段は明るく振舞っていても心の中には、人に簡単に話せない思いを抱えています。物語は3人それぞれの視点から描かれていてお店で起こる出来事や料理をきっかけに、彼女たちの過去や胸の内が少しずつ浮かび上がってきます。
大きな事件が起こったり、劇的な展開があるわけではありませんが、だからこそ3人の会話や日々の過ごし方がとても身近に感じられます。人生には楽しいことばかりではなく、後悔することや、思い通りにならないこともあります。この本を読んでいると、そんな人生の中で誰かと一緒にご飯を食べたり、くだらない話をしたりする何気ない時間が大切で日々を生きる力になるのだと感じました。
この本の1番の魅力は物語に登場するおいしそうな料理の数々です。惣菜屋さんらしく、特別なごちそうというよりは季節の食材を使った家庭料理といったものがたくさん登場します。料理を作る場面の描写が特に魅力的で読んでいると自然と食欲がそそられます。こんな惣菜屋さんが近所にあればいいのになと思わず感じてしまいます。
この本は15年ほど前に出版された本ですが、「キャベツ炒めに捧ぐリターンズ」という続編が昨年出版されています。本作を楽しんだ方はぜひ続編の方も手に取ってみてください。(彩)


