本作は東野圭吾の遺作となった作品である。しかしこれが遺作とは本人には分からなかったと思われる。それほど東野圭吾の死は突然で作品もまたよく出来ている。何故なら本作は直木賞受賞作「容疑者Xの献身」へ繋がる作品だからだ。本作の第二部終盤でそのことを知らされる。そこに改めて東野圭吾の類いまれなる才能と感性に驚かされるのだ。

 結婚し、一児の母となっていた警視庁捜査一課の内海薫が刺される事件が発生した。内海の行きつけの馴染みのスーパーのレジ前である。刺した男は逃走した後、そのスーパーの屋上から飛び降り自殺を図った。しかし外に止まっていたトラックの幌の上に落ちたため奇跡的に助かった。男は労務者風の老人であった。逮捕後、その老人は完全黙秘を貫いた。なぜ内海警部補を刺したのか? 内海にはその老人に面識はなかった。自分が事件に関わった者の中にこんな老人はいない。ただ気になるのは、内海刑事を刺そうと乗りかかってきたとき、その老人の目は内海の顔を見ていなかった。老人の目は違う誰かを見ていた。

 湯川学教授(ガリレオ)に捜査協力の依頼が舞い込んだ。湯川は老人が誰を見ていたのか、そこに注目した。捜査を進めると二十年前のある事件が浮かび上がってきた。それは、完全犯罪を行うため、殺人のための殺人で殺されたホームレスの過去に繋がる事件であった。

 その時の犯人は湯川の友人、天才数学者の石神哲哉だった。石神が服役し一年ほど経ったとき、湯川の元に石神から一通の手紙が送られてきた。そこには数学上の難問の解法を見つけたので検証をして欲しいという内容であった。

 刑務所からの手紙には必ず検閲が入る。そのため石神は自分の本心を隠すために数学上の難問に紛れ込ませて手紙を送ったのだ。それは「ハルモス記号」を見つけて欲しいというものだった。封筒の宛先は帝都大学理工学部である。そしてそこに込められた謎を湯川は読み解いたのだ。それは「karouto」。辞書には「屍櫃」(かろうと)意味は遺骨を納める墓の石室のこと。「ハルモス記号」は「墓石記号」とも呼ばれる数学上の専門用語であった。それが何を意味するのか?

 東野圭吾が最後に仕掛けたミステリーがそこにはあった。

 そのミステリーの謎を解いたとき、湯川は最後にこう言った。

 「僕があの事件を振り返ることは、もう二度とないだろう」、と。(秀)