
今の世界情勢で何かと話題になるユダヤ人。ユダヤ教を信仰する彼らは、日本人にとって馴染みが薄い存在ではないだろうか。古代から現代に至るまで、ユダヤ人の歴史と思想をわかりやすく紹介してくれる一冊。なぜ今日の領土争いにつながるのか、著者の視点からなるべくフラットに焦点を当てた内容だ。
古代イスラエルの民は、実際には遊牧民から農民に至るまでの様々な部族の連合だった。独立国家を持たない状態で多様な人びとをひとつにまとめるために効果的だったのが「神との契約」という考え方であり、宗教集団がいかに持続するかという社会学的観点に着目したこの視座は、今日でも有効だという。モーセ五書という律法が定められ、シナイ契約によりその遵守が求められた。律法は全人類にとって重要なものであり、イスラエルの民がこれを守ることによって全人類が救われるとされた。ここから、他の民族より神から選ばれたとする「選民思想」が生まれたが、本来の意味は他の民族より優位にあるという意味ではなかった。その後何度も律法の効力を失う場面が訪れようとしたが、神が解かない限りは現在も律法は有効であると考え、守られてきた。
国を持たず3000年もの間、その所々でユダヤ教を守ってきた人びとが、世界の動きの隙間にどのように介在できるかと模索し、実際に入り込んで永らえてきた。その中で選民思想が形を変え、暴力を厭わない集団が今の世界情勢に加担している。人びとの思想が幾重にも重なったあげく、現在のこのような形に仕上がったのは何とも残念な思いだ。(灯)


