鮮やかな伏線回収、軽妙な会話術で人気の作家、伊坂幸太郎のちょっと不思議な長編小説をご紹介します。

 あらすじ 中学校の国語教師、檀先生は接する他人の近未来を垣間見ることができるという不思議な能力の持ち主。彼はそれを「先行上映」と呼んでいる。檀先生は教え子である里見の父親が失踪するという不穏な事件に遭遇し、その父親がトイレで監禁されているという場面を「先行上映」で目の当たりにする。さらにもう一人の教え子布藤鞠子から自筆の小説を「読んでほしい」と渡されるのだが、そこに書かれている世界では猫を虐待する人間たちに天誅を加えて歩く奇妙な「ネコジゴ・ハンター」の二人組、アメショーとロシアンブルが登場する。楽観的で軽快にしゃべるアメショー、悲観的で「もうおしまいだ」が口癖のロシアンブル。やがて、彼らの登場する小説世界と現実の世界が、不思議な暗合を見せ始める。現実の世界では、檀先生は人質が犠牲になった立てこもり事件「カフェ・ダイヤモンド事件」の遺族たちと関わりを持ち、彼らが何事か不穏なことを計画していることを悟る。少しぐらい未来が見えたところで何もコントロールできそうにない現実世界の難題に、檀先生は微力ながらも自分なりの正義感で立ち向かっていく。

 著者お得意の、現実的な日常からちょっとずれたところに垣間見える、スパイやテロリストやそれに類する存在が暗躍する不穏な世界の物語。現代社会への風刺的な視点もさることながら、最も印象に残ったのは、ネコジゴハンターの2人組でした。性格は全然違うけど、「マリアビートル」の蜜柑と檸檬を思い出します。(里)