8月も下旬となると、もう朝夕の空気の冷え方などに、初秋の声を聞く心地がする。明日、8月23日は二十四節気の処暑。暑さが峠を越える時期とされる。先日、8月19日は語呂合わせによる「俳句の日」だったが、この季節の俳句にも印象的なものが多い◆まずは江戸期の代表的な俳人与謝蕪村。「菜の花や月は東に日は西に」など春の句がよく知られ、夏の風物詩雷を詠んだ「稲づまや浪もてゆへる秋津島」は稲光が日本列島を照らし、四方の波が垣根をつくるように取り囲んでいるという壮大な句。初秋の季語「朝顔」を詠んだ「朝顔や一輪深き淵の色」では、深い青色が深まる秋の空の色をも思わせ、美しい印象を残す◆近代俳句の第一人者、正岡子規の「涼しさの腹にとほりて秋ちかし」。体で直に感じる、季節の移り変わりの実感を詠んでいる。わずか35年だが、体ごと創作に向き合うような激しい生涯だった。死去の5年前、30歳の作には「月一輪星無数空緑なり」との夜空を詠んだ印象深い句がある◆子規の同郷の友人、明治から昭和の戦後まで長く活躍した高浜虚子は筆者の特に好きな俳人の一人。蕪村と趣は違うが稲妻を詠んだ句があり、「雲間より稲妻の尾の現れぬ」とどこかユーモラスな詠みぶりだ。1945年の8月22日に詠んだ句が「秋蝉も泣き蓑虫も泣くのみか」。敗戦を告げた玉音放送から1週間、時に虚子71歳である。声を放つ蝉、声を持たない蓑虫。どちらも「泣くのみ」と、言葉にならない激しい感情を表す◆まばゆい白い輝きを宿していた夏の空から、深みのある澄んだ青い秋の空へと変わっていく。澄明な空気の中でものがクリアにはっきりと見えてくる、そんな季節が近い。(里)