
毎日のように、各地で凄惨な事件、謎めいた事件が発生しています。現場から遠く離れた大多数の新聞、テレビの読者、視聴者は、記事を読み、ニュースを見た際の印象で逮捕された容疑者が真犯人であると疑わず、犯人がなかなか特定されない場合は被害者の身近な人に疑いの目を向けてしまいがちです。
日本の警察の殺人事件の検挙率は90%を超え、刑事裁判における有罪率はほぼ100%ということもあって、容疑者=真犯人といったイメージが間違っている訳ではありませんが、起訴後の裁判をよくみれば、逮捕時の印象が大きく変わることもあります。日々、目に留まる短いニュースとあふれかえる憶測だらけの世間の声。人が捨てられない先入観とはいかに危うく、恐ろしいものか。本作はそれを浮き彫りにする5つの短編集です。
各編とも、プロローグとして新聞の事件記事から始まります。それはどれも短く、社会面の隅に載る小さな記事。「ジャングルジムとチューリップ」という作品は、生後間もない乳児の遺体を公園の花壇に遺棄し、死体遺棄容疑で逮捕された女が主人公です。
物語 23歳の彩絵は裕福な家庭に育ち、名門大卒のエリートの自分を「勝ち組」だと思っていた。事実婚の相手である拓也との間に男児を出産するが、拓也はSNSを嫌い、彩絵は彼の強い希望で2人の関係を周囲に秘密にしていた。結婚式は挙げない、籍も入れない。ともに時代の先をゆくパワーカップルだと信じていたが、ある日、拓也の戸籍が必要になり、拓也のマイナカードで書類を取り寄せてみると、拓也の両親は死亡、さらに姓名を変更したという驚きの事実が記載されていた。きのうまで一点の曇りもなかった拓也への信頼に疑念が生まれ、調べれば調べるほどに謎が深まる。やがてその疑いは過去のある事件につながっていく…。
どの物語も、ミステリー作家ならではの発想で面白く、どんでん返しの強引さは否めませんが、一ついえるのは、情報社会に生きる私たちは世間の出来事を先入観で処理しがちで、記事やニュース映像(事実)の裏の真相はまるで見えていないということ。容疑者が真犯人なのか、被害者には本当になんの落ち度もなかったのか。言葉はちょっといやな響きですが、大きなニュースには少し斜に構え、見落としがちな小さな事件記事も、容疑者、被害者に想像をめぐらせてみれば、また違った印象、発想が生まれるかもしれません。(静)

