「主任弁護人って、レベチな弁護士ってことですか?」

 被告人の酒井由起は主任弁護士のことをこう呼んだ。

 大手法律事務所の上司から担当を任されたばかりの森本里奈弁護士は、意味が分からず訊き返した。

 「レベチ?。どういう意味ですか?」

 「レベルの違う弁護士ということ」

 森本はこの人の弁護をするのかと、先が思い遣られた。続けて酒井はこうも言った。

 「スマホの差し入れ、弁護士さんにお願いできないですかね?」

 森本弁護士は唖然とするばかりだった。

 この小説は「紀州のドンファン殺人事件」を題材にしている。被告人の須藤早貴を酒井由紀、「紀州のドンファン」を「銚子のドンファン」としている。小説ではあるが、あたかもノンフィクションであるかと思える。そうであるがゆえに真実に迫っているように思える。もし田辺市で起こった覚醒剤による殺人事件なら、被告人の須藤早貴はこう喋ったに違いないと思えるような会話と事件の概要である。

 小説では事件から二年後に、被害者の遺言書というのが出てくる。この遺言書には「遺産のすべてを『銚子クレイドル』(注・銚子市内の福祉施設)に寄付する」と書かれていた。さらにこの「銚子クレイドル」に被害者は毎年、五百万円を寄付していた。なぜ被害者は毎年、寄付を続けていたのか?

 ドンファンの会社の従業員・水脈(みお)が中学時代に「銚子クレイドル」に世話になっていたことがやがて明らかになる。この事件には水脈が係わっていたことが明らかになり、それが真犯人へと繋がっていく。(秀)