
畠山丑雄著「叫び」と同時にこの1月に第174回芥川賞を受賞した、一級建築士でもある鳥山まこと氏による小説をご紹介します。
物語 「売物件」となり解体を待つある一軒の家に、青年が1人忍び込む。そしてその中に座り込み、内部を詳細にスケッチブックに描き写し始める。彼は幼少時にその近隣に住み、この家の最初の住人で設計も手がけた「藪さん」と一緒に毎日絵を描いて過ごした思い出があった。
この家には、「藪さん」をはじめ3代の住人が住み替わった。青年が絵の中に家の存在を写し取るかのように描いていくに連れ、家は次々に、それぞれの住人の断片的な記憶をよみがえらせていく。部屋の中央にある大きな柱に固く巻かれた籐。それは建築時に、設計者でもある住人の藪さんを含め、建築スタッフがみんなで一巻きずつ巻いたものだった。蓄積する時間の象徴のようでも、そこに積み重ねられてきた住人たちの記憶の象徴のようでもある籐巻の柱。やがて解体の時が来て、その強固な柱も役割を終えて壊されていく。
著者のインタビューを読み、思ったのは「本当に誠実な仕事というものは、それだけで一つの力を持ち得る」ということでした。3代にわたって住み継がれた家を建てる際の作業など、建築士でもある著者は実に丁寧に描写していきます。住人たちとその周辺の人々について克明に再現され、多くの情報が浮かび上がってくると共に、物語の面白さなどとは次元の違う、この作品独自の強い個性を発見したのでした。
作品の中の「家」に関する人々の誠実な仕事と、著者自身の丁寧で丹念な描写術が重なります。(里)


