当地方でも、あちらこちらでソメイヨシノやしだれ桜が花を咲かせています。ある桜の物語を描いたエッセイをご紹介します。

 内容 文春文庫で毎年出版されている、日本エッセイスト・クラブ編による「〇〇年版ベスト・エッセイ集」。2002年版「象が歩いた」に収められている「『黙契』…花かげの花守りたち」。著者は財団法人福岡文化財団理事長、四島司氏。主人公は福岡市の桧原(ひばる)地区にある、桜並木。昭和59年3月、アクセス道の整備のためそのうちの一本が蕾のまま伐られた。ある銀行員が夜更け、色紙に「花あわれ せめてはあと二旬ついの開花を許したまえ」と当時の福岡市長、進藤一馬氏宛に和歌をしたためて桜につるした。それから共感の輪が広がり、多くの人が桜の命ごいの歌を次々に寄せ始める。そして進藤市長からの返歌「桜花(はな)惜しむ大和心のうるわしやとわに匂わん花の心は」も桜に掲げられ、道路計画は変更。桜は守られ、今も咲いている。進藤市長は「花守り市長」の名で呼ばれることとなった。

 桜の物語は、どうしてこうも日本人の心を惹きつけるだろうかとしみじみ思います。やはり特別な花なのですね。そうした花を持っていること自体、幸福な民族なのかもしれません。

 そのほか、ちょっと面白かったエッセイに「ねずみに水」がありました。「寝耳に水」を「ねずみに水」と覚え間違っている孫娘に言葉の意味を問うと「ねずみに水をかけたらびっくりするでしょ、急に驚くことなの」と大真面目に教えてくれたという。どこにも随筆のネタはころがっているのだなと思い知ります。(里)