久しぶりに面白い小説を読んだ。第174回芥川賞受賞作である。

 天皇やら銅鐸やら満州やらと、やけに込み入ってシュールな感じの小説なのかと思ったが、読み進めるとなんとも興味尽きない物語へと変貌していった。

 早野ひかるという、さえない公務員の三十男の恋愛譚。大阪茨木市が舞台であるところも新規軸である。

 ある日、早野が安威川の堤防を散歩していると不思議な金属音が聞こえてきた。その音に導かれて洞窟の中へと入って行くと、そこには銅鐸を叩く老人がいた。早野は銅鐸の音に魅せられ、やがて自分でもその老人を先生と呼び銅鐸を作るようになる。先生から茨木の歴史を教えられ、ここはかつて罌粟畑が広がり、その罌粟作りを広めるために満州へ渡って行った多くの人々がいたことを知る。その中に紀元二千六百年の万博を夢見た青年もいた。いま歴史は昭和から令和へと移り変わり、いまの大阪はかつての中国大陸と大きく繋がっていたことを教えられたのである。

 早野は市民交流センターで知り合った女性と大阪万博でデートすることになる。その日は天皇陛下が大阪万博へ行幸された日である。早野は「陛下への花束」を捧げたいと思った。それは満州へ出向いた青年たちの代わりに成し遂げようとすることであった。

 陛下が万博へ来られたとき、早野は陛下の前へ飛び出した。しかし、取り押さえられ、陛下の行幸を妨害した者として逮捕された。

 警察の取調室で早野は動機を訊かれた。「本人にしか言いたくありません」、さらに、「どうしてもお伝えしたいことがあったんです」とも言った。取調官は「いくらなんでもムチャ言うとるわ」と呆れたが、早野はただ「本人をここへ呼んでください」と言うのみであった。

 選考委員の島田雅彦は「関西には偽史の分厚い蓄積がある。それが講談という口承文芸に現れたり、伝奇小説となった。『叫び』はそうした関西の磁場から立ち上がった」と述べている。また「選考委員にも西日本出身者には本作品は受け入れられ、東日本出身者にはイマイチという傾向が見られた」とも言っている。

 タイトルについては、作者は受賞後の会見で「読者にはどのように解釈していただいても結構です」と言っている。あなたはどう解釈しますか?(秀)