「早春」とされる2月が過ぎ、本格的な春となる3月が来た。古名である弥生の語源は「いや・おい」。「いや」は「ますます」、「おい」は「生い」で草木が生えて伸び育っていくことだという。気候の暖かさはそのまま生命の成長につながる◆季節の移り変わりを楽しめるのは日本に暮らす大きな喜びの一つ。特に、冬から春への移り変わりは人の心を弾ませてくれる。コーラスの発表会などでよく四季の童謡メドレーがうたわれるが、春の童謡や唱歌は数多い。春先をうたったものには「どこかで春が」「早春賦」などがある◆先月から通算45作品目の劇場アニメが公開されている国民的人気漫画「ドラえもん」に、春の訪れを思わせる好きなシーンがある。エピソード名は「山おく村の怪事件」。近隣で工事が始まり、のび太は両親に静かな環境をプレゼントしようとドラえもんの助けを借りて「山おく村」の古民家へ両親を連れて行く。ママは広い窓から雪景色を長め、雪解けの音など聞きながら楽しそうに「どこかで春が」をうたい、パパも声を合わせる◆アニメキャラはいつまでも年を取らず世代を超越しているが、コミックを参照するとのび太のママには「ママが小さい頃はね、日本が戦争に負けてひどい暮らしだったのよ」というセリフがあり、それに従うと昭和初期生まれ。歌手による流行歌よりも唱歌がなじみ深い年代かもしれない◆3月には弥生以外にも桜月、雛月、花月、桃月、夢見月など美しい異称が幾つもある。季節の恵みを喜び、言葉で表現するのは日本人ならではの感覚だろうか。寒さで縮こまっていた体が伸びると同時に心も伸び伸びし、のび太のママならずともうたい出したくなる、うれしい季節である。(里)