
若き作家のデビュー作をご紹介します。工業高校の女子生徒たちの物語で、映画版が今月から公開なんですが…今のところ和歌山県内では上映の予定がないようです。
あらすじ 茨城県東海村で工業高校機械科に通う数少ない女子生徒、ラッパーを夢みる朴秀実、漫画好きの図書委員岩隈真子、陸上部のエース矢口美流紅(みるく)。それぞれに家庭の事情を抱える3人は、決して特に仲良くもなかったのだが、さまざまな出来事を経て少しずつ距離を縮めていく。
秀実がカリスマ的存在のラッパー「ノスフェラトゥ」からレコーディングしてやるとの名目で呼び出されてひどい目に遭わされかけ、彼の部屋からあるものを盗んで逃げたことから、彼女たちには鬱屈した現実を逸脱する術が手に入る。それは大麻の種。学校の屋上で放置されていた温室を使うため彼女たちは「園芸同好会」を結成し、せっせと大麻を育て始める。同好会の名は「オール・グリーンズ」。グリーンライトが青信号を表すように、「すべて快調」の意味だ。
化学部の後輩男子も巻き込んで質のいい「ブツ」を精製する方法もマスターし、彼女たちは数百万円単位で儲けていくのだが…。
北関東の土地感覚が分からないのですが、「何もない土地」として描かれ、とにかくいつかそこから抜け出すことを夢みるのが3人の共通点。朴秀実のラップ、岩隈真子の漫画、矢口美流紅の映画と、それぞれに異世界へ飛ぶ鍵を手にしているのですが、現実に成功を約束してくれるはずの「収入」の手段である違法薬物は、彼女たちにとって決定的な危険と紙一重の両刃の剣。
物語の中の重要な小道具として、「マチェーテ」という西洋の鉈(なた)が登場します。武器にもなるし(威嚇も含めて)、下手をすると自分も危ないという、これがなんだか彼女たちの闘いを象徴するようにも思えて印象的でした。
しかし、自分たちなりのやり方で面白くもない現実に向き合う3人の闘いには、読んでいて不思議なすがすがしさを覚えさせられるものがありました。誰しもが多かれ少なかれ持つ現実への違和感、それを乗り越えていこうとする奮闘が、やり方はどうあれ共感を呼びます。3人の、決してウマがあう仲良し3人組ではない凸凹トリオっぷりはリアリズムを感じさせ、それでもどうしても助け合ってしまう、絆が生まれてしまうところに若さを感じました。(里)


