
今月のテーマは午年の始まりにちなんで「馬」。今回は、妻の内助の功で立派な馬を買ったことで知られる山内一豊と妻の千代の物語です。
「功名が辻」(司馬遼太郎、全4巻、文春文庫)
人のいい戦国侍、山内一豊。素晴らしい馬を見つけるが、黄金十枚という途方もない値。帰って妻の千代に話すと、なんと千代が黄金十枚を出した。
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山内伊右衛門は、羽柴秀吉がすぎて行った十騎あとに、ゆらりと山鳥葦毛の例の逸物を打たせて出てきた。その馬のみごとさに、公卿の桟敷からさえ感嘆の声でどよめいたほどであった。
「おお、あれか、馬で知れるわ」
信長は、ひざを叩いた。「伊右衛門の山鳥葦毛の前には、諸大名どもの馬さえずんと見劣りしてみえる」
伊右衛門は、かつかつと打たせてゆく。乗りざまもいつもとちがってみごとなものだ。馬がよいと、つい乗る姿勢さえしゃんとしてくるものらしい。
(千代、見ろ。そなたの馬だ)
伊右衛門の眼の前に、浅みどりの春の朝の空がひろがっている。


