
和歌山県が生んだ天才的作家有吉佐和子の数少ないエッセイをまとめた貴重な一冊です。没後40年以上を経て、令和の今なお人気の火が勢いよく燃え続ける稀有な作家の内面に迫ります。
内容 何を発表しても何の賞ももらえずくさっていた時、文豪・井上靖が「もう十年我慢しなさい」の言葉をくれた。数年後に会うと「これからは売れない小説をお書きなさい」と言われた。ちょうど「恍惚の人」の執筆準備中で、年寄りが耄碌した話などどんなに詳しく書いても誰も喜んで買うことなどないだろう、それならとことん書いてやろうと決心。ところがそれは出版社の誰の予想をも裏切って、発売直後に爆発したような売れ行き。しかしいわゆる文壇ではあまりの売れ行きに皆が白けてしまい、好意的だった作家にまで反感を示され、批評では売れるのは文学ではない証だ、商売上手な作家だとまで言われた。ショックで2カ月寝込み、枕から頭が上がらなくなった。文豪井伏鱒二から「どうして寝込んでいるのか、男なら男子の本懐じゃないか」、井上靖から「もう起きるように」との言葉を伝えてくれる人がいて、ようやくベッドから這い出した。その後井上靖に「胃潰瘍で胃が痛むんです」というと、「なんだ胃潰瘍ですか」と笑われ、「作家はみんな胃潰瘍ですよ。ぼくも胃潰瘍だが、ブランデーで治しました」とぐいぐい飲む。つられて飲むと、翌日胃痛はけろりと治っていた。(「井上靖語録」)
昨年は没後40年。没後30年の時にもフェアがあり、多くの著書が復刊されましたが、近年の人気ぶりはとにかくすごい。数年前には「非色」、今は「青い壺」がベストセラーになっています。時代を超えてこれほど人の心を捉えるものは、決して時代の徒花などではなく普遍的な真理を内包している証ではないでしょうか。
本書は、小説を書くことに心血を注ぎ随筆類はあまり執筆しなかった著者の、貴重なエッセイ集。ヒット作の裏側、異国で育った幼少時、郷里和歌山への思いなどが率直につづられ、言葉だけではない真の才女ぶりと意外なかわいらしさ、「人間・有吉佐和子」がにじみ出ていて非常に興味深い。著作の普遍的な魅力の源泉がここにはあります。和歌山県人には、著書を何冊かと本書を併せて読むことをお勧めしたいです。(里)


