
今回紹介する本は柚月裕子さんの「逃亡者は北へ向かう」です。この本は第173回直木賞候補にも選ばれましたが、惜しくも受賞とはなりませんでした。
物語の舞台は東日本大震災直後の東北地方。工場で働く孤独な青年の真柴はトラブルが元で誤って人を殺してしまう。真柴はある目的を持って北へと逃亡を始めたが、その途中で津波によって家族とはぐれ一人になっていた少年・直人と出会い行動を共にする。一方、震災で娘を亡くした刑事の陣内は真柴の行方を追って捜査に当たる。混沌とした被災地で逃亡を続ける真柴とそれを追う刑事の陣内は北の地で対峙することになる…。
真柴は物語の中で「生まれながらにして運に見放されている者」と言われ、負の連鎖が続く人生を送っています。もし震災が起こっていなければ…、あの時こうしていれば…、という「たられば」を挙げればきりがなく、彼の運命は悪い方へと転がり続けます。物語を最後まで読んだ時、彼の人生とはいったい何だったのか…そう考えずにはいられませんでした。救いのない重い結末だと感じ、私自身の感想として読後はあまりいいものではありませんでした。そんな中で唯一希望を感じられたのは、真柴が直人に出会うことにより、自分が失ってきた愛情や温もりを取り戻し、逃げてばかりだった人生をやり直そうと思えたことです。誰かを思うことで自分の運命から逃げずに立ち向かう人間に変わっていく姿は希望が感じられました。過去は変えられないけれど、人は変わることができる、そこにわずかでも救いが感じられる物語でした。(彩)


